No.0704:ビル・ゲイツの空売り
「イーロン・マスク 下巻」
- ウォルター・アイザックソン著
- 井口耕二訳
- 文藝春秋刊
●さて、今週のコメントも「日本人の知らない日本語」つながりです。 某生保のI・K常務からいただいたコメントです。 「名古屋では質屋を「ひちや」と言いますね。以前、名古屋支社長時代に「ひちや」と書いた看板にびっくりしてベテラン職員に「どうして言うだけじゃなく、書く時も「ひちや」って書いちゃうんだろうね…と言ったところ「ひちやが正しいからですよ」と応えられました。 名古屋では「ひちや」が正当です。 「郷に入りては郷に従え」…今はそれが正しいと思っています(笑)」 鳥)続々と興味深い日本語が出てきますね。 名古屋で質屋を開業していた方に確認しました。質屋を、すべて「ひちや」というわけではなく「ひちや」という場合もある。ということらしいです。(笑) |
●さて、今週の「でんごんばん」は、イーロン・マスク初の公式伝記最終号です。 NO704「ビル・ゲイツの空売り」⇒ゲイツとイーロンの考え方の違い。 NO705「ツイッター買収」⇒マスクにとって念願の遊び場の買収。 NO706「ツイッターのリストラ」⇒75%のリストを断行。 ●マスクつながりで、3年前の8月に出したイーロン・マスク氏関連の「でんごんばん」NO72、NO73もよろしければお読みください。 NO72「会社の1日の燃費」 NO73「トヨタの時価総額を抜いたテスラ」。 ここ数年で、テスラもマスクも超有名になっており、いま読み返すと隔世の感があります。 |
●「一度ゆっくり、慈善活動と気候について話がしたいのですが」
――ビル・ゲイツがマスクにもちかけた。
2022年の初め、たまたま同じ会議に出ていてバッタリ会ったのだ。
マスクは、慈善基金を創設し、株を売って得た57億ドルを税金対策で
そこに投じたとこだった。
一方、ゲイツは慈善活動に時間のほとんどをつぎ込んでいた。
「いいですね。会いましょう」となったので、ゲイツは
マスクのスケジュール担当に事務所から連絡を入れさせようとした。
ゲイツのあれこれは、スケジュール担当やアシスタントが何人もチームを
組んでお世話していて、マスクのほうも当然にそうなっていると思ったのだ。
「スケジュール担当はいません」
マスクは個人秘書もスケジュール担当もなくしてしまっていた。
自分の予定は自分で管理したいと思ったからだ。
「私に直接連絡しろと秘書に伝えておいてください」
マスクほどになってスケジュール担当がいないなど面妖だとゲイツは
思ったし、自分のアシスタントからマスクに連絡させるのも何か違うと
思ってしまった。だから自分で連絡し、オーステインで会う日時を決めた。
世界一の金持ちという肩書を持ったことのある人物同士がよしみを結ぶ
という珍しい事態になった。
●ふたりの間には放っておけない問題が一つあった。
ゲイツは、テスラの株価が下がることに大きく賭け
カラ売りを仕掛けていたのだ。その予想は外れ
ゲイツはオーステイン来訪時で15億ドルの含み損を抱えていた。
その話を聞いたマスクははらわたが煮えくり返った。
大嫌いなものの中でも一番大嫌いな空売り筋だからだ。
ゲイツが謝罪しても、マスクの気は収まらなかった。
なぜ空売りするのかとゲイツに尋ねたところ
ゲイツは言う「空売りすれば儲かると思ったから」と。
マスクにはない考えだ。
マスクは電気自動車に向けて世界を動かすというミッションを信奉し
有り金すべてをつぎ込んできた。安全投資とは思えなくても、だ。
「どうして、気候変動と真剣に戦っていると言いつつ
一番奮闘している会社の足を引っ張るようなことができるんでしょうね」
―-ゲイツ来訪の数日後、マスクは私にこう訊ねた。
「そんなの偽善に過ぎません。ほんと、どうして、持続可能エネルギーの車を
作る会社をこかして金を儲けようとするんでしょう」
●4月半ば、ゲイツから、慈善活動のアイデアがいくつも記された文書が届いた。
本人が書いたものだ。
マスクは「いまもまだ、5億ドル、テスラ株を空売りしたまま
なのでしょうか」とメッセージでただした。
「まだ手仕舞いできていません。申し訳ない。
それより、慈善活動について話をしたいのですが」
すぐに返信が来た。
「悪いのですが、気候変動の解決に一番尽力している会社
テスラに大規模な空売りをしかけている人が進めている
気候問題の慈善活動など、真剣に考えることはできません」
マスクは怒ると容赦がなかったりする。
特にツイッターではガツンといく。
ゲイツには、空売りにマスクが怒る理由がわからない。
逆にマスクは、それをゲイツがわからないのがなぜかわからない。
「彼はどうしようもなくおかしいと(かつ、本質的にくそ野郎だと)
判断せざるを得ませんね。いい人だと思っていたんですが(ため息)」
―-ゲイツとのやりとりをしたあとに、私(著者)に送ってきたメッセージだ。
●ただ、ゲイツは、この少しあと、ワシントンDCの晩餐会でマスクの批判が
あちこちから出たとき、「イーロンの言動についてあれこれ言うのは
勝手ですが、科学とイノベーションの限界を彼ほど広げている人物は
この時代、ほかにいませんよ」と指摘している。
●マスクは昔から慈善活動に興味がない。自分が人類に貢献するには
お金を会社につぎ込み、エネルギーの持続可能性や宇宙開発
人工知能の安全性などを推し進めるのが一番だと考えているからだ。
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