No.0705:ツイッター買収
「イーロン・マスク 下巻」
- ウォルター・アイザックソン著
- 井口耕二訳
- 文藝春秋刊
●ツイッターが直面している問題について考えた。
フォロワー数が上位に並ぶバラク・オバマ、ジャスティン・ビーバー、
ケティ・ペリーなどは、ツイートがめっきり少なくなってしまっている。
そう気づいたマスクは、ハワイ時間の午前3時32分
次のようにツイートした。「『トップ』アカウントの大半はめっきりツイートせず
コンテンツをほとんど投稿していない。ツイッターは死にかけているのか?」
●ツイッターCEOのアグラワルがいるサンフランシスコはこのとき
朝の6時半だ。マスクのツイートから90分ほどあと
アグラワルはマスクにメッセージを送った。
「『ツイッターは死にかけているのか?』などなんでも好きにツイート
していただいてかまわないのですが、そのような行為が、現状、
ツイッターを改善しようという私の努力を助けるものではないことは
立場上、お知らせせざるをえません」
このメッセ―ジが届いたとき、ハワイは朝5時ごろだったわけだが
マスクはまだ元気いっぱいだった。
受信後わずか1分後、痛烈な一言を返す。
「今週、どういう成果を挙げましたか?」
マスク渾身(こんしん)の痛劇である。
続くのは斉射3回の弔銃だ。
「取締役になりません。時間の無駄です。株式非公開化を提案するつもりです」
アグラワルにとっては驚天動地(きょうてんどうち)だろう。
マスクの取締役就任は発表まですんでいる。
その彼が敵対的買収に転じる予兆はなかった。
「とにかく、お話させていただけませんか?」――悲痛な叫びが返ってきた。
●マスクは「サンフランシスコのツイッター本社をホームレスのシェルターに
するのはどうだろうか。どうせだれも出社していないんだし」と
投票でよびかけるなど、ツイッターをつつき続けた。
この投票は150万票もの回答が集まり、その91%がシェルター化に賛成だった。
●ツイッター株式の100%を現金で買い取ることを提案します。
価格は1株54ドル20セント、私(マスク)がツイッターに
投資を始めた日の価格に対して54%のプレミアム
私の投資が公表された日の価格に対して38%のプレミアムを乗せた価格です。
ビジョンは2028年までに売上は5倍の260億ドル。
同時に広告依存度は現状の90%から45%まで引き下げる。
新たな収益源は、ユーザーから徴収するサブスク料金とデータの
ライセンス料金だ。ペイパルやウイーチャットと同じように
ツイッターにも、新聞記事などのコンテンツに対する少額決済済の機能を
持たせ、そこからも収益を得る計画だという。
●「最近はメデイアがどんどん集団的浅慮(せんりょ)に走って同調圧力が高まっており
みんなと足並みをそろえなければ排斥(はいせき)されたり黙らされたりすることに
なります」民主主義が死なないためには、ツイッターからウォーク文化
(もともとは「目覚める」という意味の動詞「wake」の過去分詞。そこから
転じて「社会的正義や人種差別などに敏感なこと」を意味している)を
排除し、偏見や偏光を根絶やして、どのような意見でも表明できる
オープンな場なのだと世間に認知してもらう必要があるというのだ。
●マスクはそう言うが、ツイッターを手中に収めたいと思う理由が
ほかにもふたつあるのではないかと私(著者)は思う。
ひとつは分かりやすい理由だ。遊園地みたいに楽しいからだ。
政治的な平手打ちもできる。知的剣闘士の試合もある。
ばかばかしいミームもある。大事な発表もあれば
価値のあるマーケティングも、しょうのないだじゃれもある。
ふるいにかけられていない生の意見もある。面白くないはずがない。
もうひとつ、マスクにとってツイッターとは、心が焦がれる場なのだろう。
究極の遊び場なのだ。子どものころ、マスクにとって遊び場とは
殴る蹴るのいじめに遭う場所だった。
この体験があったから、マスクは世界に立ち向かえるようになった。
必ず最後まで全力で戦い抜くようになったのだ。
オンラインでもリアルでも、へこまされた、追い詰められた
いじめられたと感じると、父親にディスられ、クラスメートにいじめられた、あの超痛い場所に心が立ち返ってしまう。
その遊び場を自分の手中に収められる日がついに来たのだ。
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