No.0716:ネガティブ・バイアス
「ThinkingIOI イェール大学集中講義・思考の穴」
- アン・ウーキョン著
- アン・ウーキョン
- イェール大学心理学教授
- イェール大学「シンキング・ラボ」ディレクター
- イリノイ大学アーバナシャンペーン校で心理学の博士号を取得後イェール大学助教、ヴァンダービルト大学准教授を経て現職。
- 2022年、社会科学分野の優れた教育に贈られるイェール大学レックス・ヒクソン賞を受賞。
- アン・ウーキョン
- 花塚恵訳
- 花塚恵
- 翻訳家
- 福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。
- 「SLEEP最高の脳と身体をつくる睡眠の技術」(ダイヤモンド社)
- 「LEADER‘S LANGUAGE 言葉遣いこそ最強の武器」(東洋経済新報社)
- 花塚恵
- ダイヤモンド社刊
人は「ネガティブな情報」に過剰に影響される
たとえばジョンという男性がいて、あなたは彼と2回だけ会ったことが
あるとしよう。1回目に会ったとき、彼は何人かの友人とレストランで
食事をしていた。取り立てて親しみやすくも明るくもなかったが
それなりに話しやすいと感じた。
2回目に会ったとき、あなたは街頭で「地元企業に救いの手を」と
書かれたポスターが貼られたテーブル近くに立っていた。
ジョンはテーブルの前を素通りし、嘆願書への署名を呼びかけた女性に
見向きもしなかった。
このように、ポジティブと呼べる態度とネガティブと呼べる態度を
1回ずつ目の当たりにすれば、互いに相殺されてどちらともつかない
印象が残ると思うだろう。
だが、人はネガティブな態度のほうを重視するので、あなたのジョンに
対する総合的な印象は、どちらともつかないではなく
ネガティブ寄りになる可能性が高い。
●まったく同じことでも、
ネガティブな切り取り方をされていると避けるが
ポジティブな切り取り方をされていると喜んで受け入れる。
「飛行機は12%の割合で遅れる」という言い方より
「飛行機は88%の割合で定刻通りに運行する」という言い方のほうが好まれる。
●料理に添えるラベルで、半分の参加者には「赤身75%」
残りの半分には「脂肪25%」と記されていた。
「赤身75%」の牛ひき肉を食べた参加者は、「脂肪25%」の牛ひき肉を食べた
参加者に比べて、「油っこさ」は低く、「赤身の味わい」は強く
「肉の質」は高く評価したのだ。
脂肪分25%、というとかなり身体に悪そうに感じる。
ところが、赤身75%となると意味はまったく同じでも
ずいぶんと体に良さそうに思える。
「損失回避」のスイッチ
1カ月かけて次に乗る車について調べ、乗りたい車種を選び
カーディーラーを訪れる。準備は万端だ。
ところが、販売員からオプションのことで矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
ブラインドスポットモニターはどうするか、ステアリングアシスト機能は
必要か・・・と、ありとあらゆるオプションを確認してくるのだ。
販売員曰く、車両の本体価格は2万5000ドルだが
オプションXは1500ドル、オプションYは500ドルというように
さまざまな機能を追加できるという。
そうして機能を紹介するたびに、これがあれば快適さや安全性がどう増すか、つまり何を得られるかの説明が始まる。
別のディ―ラーの遣りての販売員は、正反対のアプローチを取る。
彼女はまず、すべてのオプションをつけたモデルを提示する。
そのうえで、安全性を高めるオプションXを諦めるなら
価格は2万8500ドルになり、縦列駐車をサポートするオプションYを
取れば、2万8000ドルになると説明する。
この販売員は、失う機能を顧客自身に選ばせるように仕向けるのだ。
これが、顧客の損失回避のスイッチを押すことになる。
1990年代に、いま例にあげたような2種類の状況では
どうするかを尋ねる実験が行われた。
ひとつのグループは、車両本体価格1万2000ドルのモデルを提示したところ
顧客が支払った価格の平均は1万3651.43ドルとなった。
そしてもうひとつのグループには、オプション機能をすべて装備した
1万5000ドルのモデルを提示し、外したい機能を選ぶように指示したところ
平均価格は1万4470.63ドルとなり、獲得を強調されたグループより
800ドル以上高くなった。
人の選択は「切り取り方」で決まる~フレーミング効果~
人が何を好み、何を選ぶかは、選択肢そのものの問題というより
選択肢がどう切り取られているかで決まる。
「運行の88%で時間通りに発着する飛行機」には乗りたいと思うが、
「運行12%で遅れが生じる飛行機」には乗りたがらない話がそうだし
「車両のみの価格を提示してからオプションの追加を提案していく販売員」と
「オプションをすべて含めた価格を先に提示し、顧客に不要な機能を
取り除かせていく販売員」とでは、前者の方が販売額が下がるという例も該当する。
フレーミング効果の影響力はとても強く、文字通りの意味で生死を左右
しかねない。
肺がんを患う人に、手術した場合は90%の確率で生存すると
伝えたところ、80%の患者が手術に同意した。
ところが、手術した場合は10%の確率で亡くなると伝えると
半数の患者しか手術を選択しなかった。
当然ながら、患者には両方の切り取り(フレーミング)を提示すべきだ。
患者の判断は、ネガティブ・バイアスとポジテイブ・バイアス
のどちらの影響も受けてはならない。
⇒本書には、フレーミング効果をさらに踏み込んだ例が書かれている。 その実験内容は、長くなるので、次回のお楽しみに。 次週の「でんごんばん」も、同書から。そして、小生の好きな洋画俳優のお話です。 |
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