No.0718:「0パーセント」と「1パーセント」の違い
「ThinkingIOI イェール大学集中講義・思考の穴」
- アン・ウーキョン著
- アン・ウーキョン
- イェール大学心理学教授
- イェール大学「シンキング・ラボ」ディレクター
- イリノイ大学アーバナシャンペーン校で心理学の博士号を取得後イェール大学助教、ヴァンダービルト大学准教授を経て現職。
- 2022年、社会科学分野の優れた教育に贈られるイェール大学レックス・ヒクソン賞を受賞。
- アン・ウーキョン
- 花塚恵訳
- 花塚恵
- 翻訳家
- 福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。
- 「SLEEP最高の脳と身体をつくる睡眠の技術」(ダイヤモンド社)
- 「LEADER‘S LANGUAGE 言葉遣いこそ最強の武器」(東洋経済新報社)。)
- 花塚恵
- ダイヤモンド社刊
●NO717「損失回避・保有効果」・・・クローゼットに衣類があふれる理由。 ●NO718「『0パーセント』と『1パーセント』の違い」・・・1%の違いは大違い。 ●NO719「自分で自分を生きづらくしている?」・・・こころの持ちよう。 ●NO720「いつもあなたの『計画』は甘すぎる」・・・大阪万博も似たようなもの。(笑) 各々お楽しみください。なお、小生の好きな洋画俳優のお話は年末配信と致します。 |
●賭けA:100パーセントの確率で100万ドル当選する。
賭けB: 89パーセントの確率で100万ドル
10パーセントの確率で500万ドル当選し
1パーセントの確率で何も当たらない。
さあ、あなたはどちらを選ぶ?
●私なら絶対に、BではなくAを選ぶ。
100万ドルは大金だ。
それを喜んで受け取って、悠々自適の生活を送るだろう。
もしBを選んで何も当たらなかったら、悔やんでも悔やみきれない。
この2択が提示されると、大多数の人が私と同じAを選ぶ。
●さらに、
賭けX:11パーセントの確率で100万ドル当選し
89パーセントの確率で何も当たらない。
賭けY:10パーセントの確率で500万ドル当選し
90パーセントの確率で何も当たらない。
この2つの選択肢を提示されると
ほとんどの人がYを選ぶ。
●先ほど100万ドルで満足だと述べた私も
100万ドル当選する確率と500万ドル当選する確率の差が
たったの1パーセントなら、当選する確率がわずかに低くても
400万ドル多く当たるほうを選びたくなる。
だが、ちょっと待ってほしい。
最初のA,Bについて、先ほどとは少し条件の書き方を変えてみよう。
●賭けA:89パーセントの確率で100万ドル当選し
かつ、11パーセントの確率で100万ドル当選する。
賭けB:89パーセントの確率で100万ドル当選し、10パーセントの確率で
500万ドル当選し、1パーセントの確率で何も当たらない。
AにもBにも
「89パーセントの確率で100万ドル当選」という部分があるので
これは排除する。そうして残ったものを整理すると次のようになる。
仮にA′、B’としよう。
賭けA′:11パーセントの確率で100万ドル当選する。
賭けB’:10パーセントの確率で500万ドル当選する。
さて、A′、B’、あなたはどちらがいい?
おそらくB’を選びたいのではないか。
念のため言っておくと、A′、B’はXとYの選択とまったく同じだ。
わかりやすいように、再度記そう。
賭けX:11パーセントの確率で100万ドル当選し
89パーセントの確率で何も当たらない。
賭けY:10パーセントの確率で500万ドル当選し
90パーセントの確率で何も当たらない。
XとYの選択の時と同じで、A’、B’では、ほとんどの人はB’を選ぶ。
だが、最初のAとBとでは、ほとんどの人がAを選んだ。
これは一貫性のない不合理なふるまいである。
の現象が「パラドックス」とよばれるのはそのためだ。
●なぜ、このような現象が起こるのかというと
同じ1パーセントの差でも、
0パーセントと1パーセントと
10パーセントと11パーセントとでは
感じ方がまったく異なるからだ。
「数学的」には完全に一致する1パーセントの違いでも、
「心理的」には全く違う扱いになる。
0パーセントと1パーセントの違いは、
「絶対起こらない」か「起こる可能性がいくらかあるか」の違いであり
要は確実性と不確実性の違いとなる。
一方、10パーセントと11パーセントの場合は
どちらも可能性は低いという意味であまり変わらなく感じる。
●行動経済学の専門家は、賭け事の例を使って選択する状況について
論じがちだが、そうすると、選択の結果がもたらす事象が
身近なことから少し遠ざかる。
「100パーセントの確率で100万ドル当選する」という賭け事を
いったい誰が何のために用意するというのか?
これはそもそも賭け事ですらないし
そのようなことが現実に起こるとはとても思えない。
●そこで、誰もが味わったパンデミックという現実を考えてみよう。
アメリカCDC(疾病予防管理センター)によると
2021年6月時点で、ファイザーとビオンテックが共同開発した
ワクチンには、新型コロナウイルスへの感染による入院を防ぐ効果が
ファイザーは95%、モデルナのワクチンには94%あるとみなされていた。
ワクチンに対する不満、懸念、反対意見、過剰反応は数多く登場したが
この2種類のワクチンの有効性における1パーセントの差に文句を
言っている人は見たことがない。
仮に、その差を理由に、モデルナのワクチンの接種は無料
ファイザーのワクチンの接種は100ドルと政府が決定したとしても
その1パーセントの差にお金を払う人はほとんどいないだろう。
だが、ファイザーのワクチンの有効性が100パーセントで
モデルナのワクチンの有効性が99%だったなら
話は違ってくるかもしれない。
ここでの差は、新型コロナの感染を100パーセント予防できるか
感染する可能性があるかの差になる。
こうなると、100ドル払ってでもファイザーのワクチンを接種する人が
出始めるだろう。これが確実性効果だ。
この1%の違いは大きい。 |
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