いまロード中

No.0719:自分で自分を生きずらくしている?

No.0719:自分で自分を生きずらくしている?

ThinkingIOI イェール大学集中講義・思考の穴

  • アン・ウーキョン著
    • アン・ウーキョン
      • イェール大学心理学教授
      • イェール大学「シンキング・ラボ」ディレクター
      • イリノイ大学アーバナシャンペーン校で心理学の博士号を取得後イェール大学助教、ヴァンダービルト大学准教授を経て現職。
      • 2022年、社会科学分野の優れた教育に贈られるイェール大学レックス・ヒクソン賞を受賞。
  • 花塚恵訳
    • 花塚恵
      • 翻訳家
      • 福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。
      • 「SLEEP最高の脳と身体をつくる睡眠の技術」(ダイヤモンド社)
      • 「LEADER‘S LANGUAGE 言葉遣いこそ最強の武器」(東洋経済新報社)。)
  • ダイヤモンド社刊

(Amazonサイトへ)


●NO717「損失回避・保有効果」・・・クローゼットに衣類があふれる理由。
●NO718「『0パーセント』と『1パーセント』の違い」・・・1%の違いは大違い。
●NO719「自分で自分を生きづらくしている?」・・・こころの持ちよう。
●NO720「いつもあなたの『計画』は甘すぎる」・・・大阪万博も似たようなもの。(笑)

各々お楽しみください。なお、小生の好きな洋画俳優のお話は年末配信と致します。

自己管理レベルが高いほど老化する?
行き過ぎた自己管理は精神衛生や幸福の妨げとなるばかりか
肉体的にも悪影響を及ぼす。
ジョージア州の田舎に暮らす、社会経済的地位で不利な立場にある
アフリカ系アメリカ人のティ―ンエイジャーのグループを
数年にわたって追跡調査した記録がある。
その調査では、ティーンの若者たちの自己管理レベルを測定した。

●17歳~19歳で自己管理が優れていた子は、22歳で薬物の乱用や暴力行為に
走る確率が低かった。これは予測どおりの結果で、自己管理を行うメリット
の典型が現われたと言える。ところが、意外な面も報告された。
思春期中期での自己管理レベルが高い子ほど
青年期になったときに免疫細胞に老化の兆しが多く表れたのだ。

いったいどういうことなのか?

不利な環境にあっても自制心の高いティ―ンエイジャーは
学校や社会でうまくいき始めると、その状態を維持したい
いや、もっと上に行きたいと願う。

しかし不利な環境に置かれているせいで、彼らには絶えず試練や困難が
立ちはだかる。そして自制心が高いからこそ、あきらめず試練に立ちむかう。
いわば、何年にもわたって終わりのない闘いを延々と繰り広げるような
ものだ。彼らのストレスホルモン系は絶えず活動状態にあり
それは身体が壊れるまで続く。

●社会経済的な立場を問わず、参加すれば報酬として講義の単位を与える
との呼びかけで集まった大学生を対象に行われた実験がある。
その実験では、参加者自身の自己管理がどういうものか測定した。

その後、全参加者に文章を写すタスクを課した。
一部のタスクはとても単純で、参加者の母語であるヘブライ語で
書かれた文章をキーボードで打つだけでよかった。

だが、意地の悪いタスクもあった。
写す文章が彼らにとって外国語にあたる英語で書かれているうえ
キーボードを打つときは利き手でないほうの手しか使うことが許されず
アルファベットの「e」を飛ばし、スペースバーを使ってもいけない。
これらのタスクについて、自己管理をとりわけ重んじる人のほうが
上手にこなすこと思うだろうか?

実際は違った。
自己管理力に対する強い欲求は、単純なタスクにはそれなりに
メリットが見られたが、困難なタスクではその逆が起きた。
自己管理力を強く求めている人のほうが
それほど求めていない人よりうまくできなかったのだ。

なぜ、そんなことになったのか?
困難なタスクには、極端にハイレベルな自己管理力が求められるからだ。
自己管理力を強く欲している人は、自分の理想(完璧な人間になること)と
実際の能力に開きがあるとすぐさま気づいた。
目指す者になれそうにないとわかれば、人はがっかりする。
その結果、彼らは手を抜き、むしろ持てる力を
発揮できなくなってしまったのだ。

このような事象について知ると、若者のあいだで
不安が広がっていることに、少しは納得がいくのではないだろうか。
不利な環境に置かれている若者は、
「出発点にいた時より、よくならなければ」と感じる。

他方、恵まれた環境に置かれている若者も、優秀な同級生に囲まれ
類まれな才能や偉業をアピールする誰かの投稿を
絶えずソーシャルメデイアで目にし、自分が到達すべき理想のレベルが
ひっきりなしに頭に浮かぶ。

現実の自分と理想の自分のあいだに差異があれば
自己管理力に長けた若者は自分に無理をさせ
ひいてはストレスや不安が生じ、敗北感を味わう。
いつまでも追求を続け、いつ辞めるかを判断するのは簡単ではない。

それを見極めるべく、私は日々、「結果に飛びつかず、過程を楽しめ」と
自分に言い聞かせている。


●ヨガ教室でラクダのポーズに挑戦するときは
インストラクターの「呼吸」という言葉に耳を傾ける。
ポーズをとるべく床に膝をついて背骨をそらし
とうてい届きそうもないかかとをつかもうと手を伸ばすとき
インストラクターが「呼吸」と呼びかける。

それは、自分を追い込む度合いを各自に呼吸で判断させるためだ。
呼吸がしづらければ、それ以上無理してはいけない。

私はこのアドバイスを信用していて
そのおかげで、どこまでも追求してしまう性分の私でも
怪我をせずにすんできた。

ラクダのポーズができるようになることは生涯ないかもしれないが
ポーズが完璧にできなくても、
呼吸を維持しながら、背骨が目を覚ます感覚や
血液が頭にめぐる感覚を味わうことはできる。

目標のために自分で自分を傷つけたり、
達成がすべてで過程は楽しくないと感じたりするようであれば
いったん立ち止まってみるべきだ。

自分の優先順位についてだけでなく
そのやり方、考え方でいいのかと改めて考えてみてほしい。

27歳8か月で亡くなった明治維新の大人、高杉晋作の辞世の句
「面白きこともなき世を面白く
すみなすものはこころなりけり」
は有名ですが、
晋作自身は、「面白きこともなき世を面白く」と
詠んで力尽きたと言われています。
下の句の「すみなすものは心なりけり」
は野村(のむら)望(も)東尼(とに)(幕末の女流歌人)が詠んだといわれています。
まさにその通りで、楽しい、楽しくないは
何事も“自分の心”次第。日々の行動過程を楽しむことがよいと思います。

コメントを送信