No.0706:ツイッターのリストラ
「イーロン・マスク 下巻」
- ウォルター・アイザックソン著
- 井口耕二訳
- 文藝春秋刊
●マスクから選ばれた、ジュームズ、アンドリュー、ロスはツイッター買収の三銃士となった。
「まずはコ―ディングの量でふるいにかけ、そこからコーディングの質がいい奴だけを抽出するんだ」
「個人はたしかに重要ですが、チームも重要だと経験から思うのです。
優秀なコーダーだけをリストアップするのではなく、全体としてすごくいい仕事をしているチームをみつけるといいのではないでしょうか」
●第1ラウンド
技術陣のぜい肉をごっそりそぎ落とす戦略の策定をマスクに指示された若い三銃士はコードベースをあさり、優秀でやる気のある人材を洗い出した。
「ツイッターには、いま、ソフトウェア技術者が2500人いる。ひとりが1日たった3行書くだけで――ばからしいにもほどがあるレベルだが――年に300万行、つまり新しいオペレ―テイングシステムができるくらい書けるはずなんだ。でもそうなっていない。なにかおかしい。すさまじくおかしい。コメディじゃないんだから、さ」
「コーディングを知らない製品マネジャーが、どう作ればいいのかもわからないまま、機能の作成を指示しています」とジェームズは指摘する。
「馬に乗れない騎兵隊長なんです」――マスク自身がよく使う表現だ。
ただ、天才的なコンピュータースキルが不要な仕事もあるはずです。
「IQ160で1日20時間働く人ばかりでなければソーシャルメデイアの会社が立ち行かないとは思えません」営業が得意の人も必要だし管理職は感情面のスキルが必要なはずです。
ユーザーの動画をアップロードする仕事もあってそれならスーパースターである必要などない。
さらに、ギリギリまで絞り込むと、だれかが病気になったり仕事がいやになったりしたら全体がまわらなくなるリスクが生じてしまう。
マスクは納得しない。
人員の大幅削減はお金だけが理由ではなく、本気で必死に働く文化にしたいからでもあるのだ。安全ネットなしで飛ぶ覚悟があるいや、ぜひともそうしたいと考えていたわけだ。
このあと、三銃士に人員を90%削減するようにと伝えていく。
●第2ラウンド
残すのは、三つの条件を満たす技術者だけ。
優秀であること、信頼が置けること、やる気に満ちていること、だ。
前週の第1ラウンドは、優秀でない雑草をぬくものだった。
第2ラウンドでは信頼が置けないものを洗い出してクビにする。
はっきり言えば、マスクに心からの忠誠を誓っていない者を追い出すわけだ。
やる気の有無をどう判定すればいいのか――ジェームズとロスは悩んでいた。
そんなとき、スラックの投稿が目に飛び込んできた。
「退職金がもらえるならやめるのになあ」
そうか、残るかどうか、自分で決めてもらえばいいんだ。
夜遅くや週末も喜んで働くよという人もいるだろう。
だがそれはちょっとと思う人も当然いるはずだしそういうのも別に恥ずかしいことではない。
自分がどちらのタイプなのか、人は、胸を張ってハッキリ宣言するものだ。
というわけで、ふたりは、新しい本気のツイッターから抜ける、いわゆるオプトアウトのチャンスを社員に与えることをマスクに進言した。
ボタンひとつのシンプルなフォームをロスが作成。
給与の3か月分の退職金をもらって円満退職したい社員はこれをクリックすればいい。
「いや、ほっとしました」とジェームズは言う。
「大量解雇をもう1回なんて、たまったもんじゃありません」
その2時間ほどあと、別の会議を終えたマスクがにこにこしながら現れた。
「いいこと、思いついたよ。逆をやろう、オプトインにするんだ。
シャクルトン型だ。自分は本気だと宣言する奴だけに残ってもらう」
「低賃金。危険満載。無事帰還の保証なし。成功すれば賞賛と名誉」とうたった南極探検の人員募集したアーネスト・シャクルトンと同じようにしようというのだ。
From:イーロン・マスク
Subj: 分岐点
Date: 2022年11月16日
今後、ブレークスルーでツイッター2・0を作り、競争が激化していく世界で
成功するため、我々は超本気にならなければならない。
つまり、長時間、集中して働かなければならない・・・
この新生ツイッターに加わろうと思う諸君は
下記リンクに「イエス」をクリックしてくれ。
明日(木曜日)の東部標準時午後5時までにクリックしなかった者には給与3か月分の退職金を支給する。
●ジェームズとロスは、結果が心配で、水曜夜、ずっと起きて経過を見ていた。
約3600人のうち、何人がイエスと答えるのか。
ふたりは賭けをした。ジェームズは2000人、ロスは2150人だ。
マスクも乗ると言うが、予想は1800人と少ない。
結果は、2492人だった。実に69%がイエスと答えたのだ。
マスクのアシスタント、ジェーン・バラジャデイアが用意してくれたウォッカ入りレッドブルで乾杯である。
●第3ラウンド
第3ラウンドは、仕事の質に問題があると思われる社員の解雇でいわゆる普通解雇にあたる、レイオフの整理解雇とは違うというのだ
(レイオフは退職金が出たりするが普通解雇は出ない)。
「このあとまた人員整理することはない」
集会をはじめるにあたり、マスクはこう宣言し、拍手喝さいを浴びた。
3ラウンドに渡るレイオフ・解雇は広範囲にわたるものでいったい何人の首がきられたのか、すぐにはよくわからなかった。
事態が落ち着いたところで確認すると、社員の約75%がいなくなっていた。
マスクが買収した10月27日、8000人弱だった社員数は12月半ばには2000人強になっていた。
企業文化も前代未聞の激変だ。
職人が心を込めて作った食事の無償提供にヨガスタジオ、有給休暇、さらには「心の安全」への配慮などトップクラスに家庭的だった文化が反対の極まで一気に振れたのだ。
そこまでしたのは、コストだけの理由ではない。
猛烈な戦士が安らぎではなく危険を感じる環境エンジン全開で攻撃的な環境をマスクが好むからだ。
⇒ツイッターは壊れてしまうのではないかと思えたが、ごく少数だけ残った 技術者は意気衝天の強者(つわもの)ぞろいで、それまでとは比べものにならない勢いで次々と新機能や工夫を追加している。 |
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