No.0708:(主人公)久能整のひとり言
「ミステリと言う勿れ」
- 原 作 田村由美
- 脚 本 相沢友子
- 出版社 小学館ジュニア文庫
●(遺産相続人である長女の)ゆらの父親の恵介が説教を始める。
「お前はもう仕事をやめたんだから、家にいて子育てや家事だけを
していればいいんだ。旦那さんに楽させてもらって
幸(娘)とのんびり過ごすがいい。それが女の幸せだろ?」
「・・・・わかってます」
まなざしをふせて、小さな声でゆらが答える。
(主人公の整(ととのう)が独り言のように)
「どうしてそうおもえるんだろ・・・・楽とかのんびりとかって」
ムッとして、恵介が整をにらむ。
「?君はだれだっけ・・・」
整は持論をとうとうと、よどみなくしゃべりだした。
「汐路さんの知り合いです。
女性は家事と子育てが好きだし、むいているって、なぜか信じている人が
いるんですけど、じゃあ逆に『男性は力があるんだから、永遠に肉体を
使って重労働してね』って言われたら、『よしOK!』って言う人と
『いや身体が弱いんで無理です』とか、それぞれに声があがると思うんですよ。
で、実際そうやって人生を選んでる。
女性もそうだと思いませんか。
全人類の半分を一律でくくるのはおかしいですよ。
たとえば家事にしたって、掃除だけは好きとか、料理だけはしたくない
とかあるだろうし。さらに、体格がいいか、筋力があるか、持病があるかで
おなじことをやっても疲れ方が違うわけです」
恵介が整の話をさえぎろうとする。
「君はいったい何を言っているのかな」
「人によるということです。楽かどうか、したいかどうか。
それはその人にしかわからない。
ほかの人が決めていいことじゃない。
『楽させてあげたい』ならわかるんです。
でも、それはあなたの気持ちであって、彼女の思いはちがうかもしれない」
何を言われているのか理解できないが、とにかく自分が否定されていると
恵介は感じたようだ。怒りの表情になる。
整はしゃべり続けた。
「たとえば、ある人が長距離を移動するのに
楽だろうと車で送ってあげたとします。あなたはそれを楽だと思う。
でもその人が、車酔いするから嫌だったかもしれない。
歩きたかったかもしれない。
でもそう言えなかったのかもしれない。
ほかの人には決められない。
人には気持ちがあるから、望みはそれぞれだから」
○ゆらが整を見つめている。
「それと」
整が続けようとしたので
恵介がいらついた。
「まだあるのか」
「僕はつねづね思っているんですが
もし家にいて家事と子育てをするのが
本当に楽なことだったら、もっと男性がやりたがると思う。
でも実際はそうじゃない。
ということは、男性にとってしたくない、できないことなんです。
なのに、なんで女性にとって楽なことだと思うんだろう」
恵介が整に強く言い返した。
「君はなんで私に説教しているのかな」
「あなたが、目の前の人がどんな顔をしているか気づいてないからです」
恵介が気にいらなさそうにゆらを見た。
ゆらが下をむく。
ゆらがおもむろに整のマフラーをつかんで
「ちょっと」とひっぱって止めた。
整は謝(あやま)った。
「すいません、言いすぎましたか。僕、加減がわからないとこがあって」
「いいから」
ゆらは整を居間の奥の恵介から見えないところへ連れていった。
「何よ、あれ、・・・・おもしろいけど」
ありがとうね、とお礼を言う。
整がホッとしたように、続きをしゃべりだした。
「すみません。でしゃばって。
でも付け加えると、“女の幸せ”とかにもだまされちゃダメです。
それを言い出したのは、たぶんおじさんだと思うから。
女の人から生まれた言葉じゃきっとない。
女性をある型にはめるために編みだされた呪文です」
ゆらが愉快そうに聞いている。
「だって、“男の幸せ”って言い方はされないでしょ。
片方だけあるのはやっぱりおかしいんですよ。
ただのおじさんの意見や感想が
自然の摂理や事実みたいに言われてしまっているんです」
「・・・たしかに、“女は愛嬌”“女の武器は涙”“女の友情はもろい”
どれもこれも男性の感性か願望でしかないもんね」ゆらの返しに
整は「はい」と深くうなずいた。
さらに持論を続ける。
「“女々しい”“女だてらに”“女の敵は女”“男勝り”“女は子宮でものを考える”
・・・世の中に残っているそういう言葉はおじさんが作ったものがほとんどで
おじさんの趣味と都合が隠されている。
そんなものじゃなくて、自分の中から出てきた言葉を使ってください。
そのほうが幸ちゃんは、子どもは、絶対にうれしいです」
そこに(ゆらの幼い娘)幸がかけよってきた。
「なにしてるのー?かくれんぼ?」
ゆらは幸にほほえみをむけた。
⇒主人公の久能(くのう)整(ととのう)本人は、ただ思ったことをしゃべっているだけなのに謎が、人の心が、ときほぐれていく・・・ そんな天然パーマでカレーが大好きな大学生久能整が広島で、遺産相続殺人事件に遭遇!? 「それぞれの蔵において、あるべきものをあるべきところへ過不足なくせよ」―-そんな謎めいた遺言を残して亡くなった当主。 この家の遺産相続は、代々死人がでているという。 はたして、遺産相続に隠された、一族の「闇と秘密」とは? 「ジュニア文庫」ですが、大人の小生でも楽しめました。なになに、頭は小学生並みですって・・・・かも知れませんが。(笑) 興味をもった方は、映画館へ足をお運びください。 |
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