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No.0714:流暢性効果

No.0714:流暢性効果

ThinkingIOI イェール大学集中講義・思考の穴

  • アン・ウーキョン著
    • アン・ウーキョン
      • イェール大学心理学教授
      • イェール大学「シンキング・ラボ」ディレクター
      • イリノイ大学アーバナシャンペーン校で心理学の博士号を取得後イェール大学助教、ヴァンダービルト大学准教授を経て現職。
      • 2022年、社会科学分野の優れた教育に贈られるイェール大学レックス・ヒクソン賞を受賞。
  • 花塚恵訳
    • 花塚恵
      • 翻訳家
      • 福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。
      • 「SLEEP最高の脳と身体をつくる睡眠の技術」(ダイヤモンド社)
      • 「LEADER‘S LANGUAGE 言葉遣いこそ最強の武器」(東洋経済新報社)。)
  • ダイヤモンド社刊

(Amazonサイトへ)


●今週から、2週にわたって「Thinking IOI イェール大学集中講義・思考の穴」
アン・ウーキョン著。花塚恵訳。ダイヤモンド社刊からです。

●アン・ウーキョン。イェール大学心理学教授。イェール大学「シンキング・ラボ」
ディレクター。イリノイ大学アーバナシャンペーン校で心理学の博士号を取得後
イェール大学助教。ヴァンダービルト大学准教授を経て現職。2022年、社会科学
分野の優れた教育に贈られるイェール大学レックス・ヒクソン賞を受賞。

花塚恵。翻訳家。福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。
「SLEEP最高の脳と身体をつくる睡眠の技術」(ダイヤモンド社)
「LEADER‘S LANGUAGE 言葉遣いこそ最強の武器」(東洋経済新報社)。

●イェール大学で学生が殺到する伝説的「シンキング」話題沸騰の思考教室。
世界最高峰の大学で、めちゃくちゃ面白くて大講堂が毎週異例の大満員。 
「わかっていても間違える全人類のための思考法」。理性の限界を体感。

●私たちが日々下している決断の数は、一時間につき2000とも
一日あたり3万5000とも言われている。
それだけの決断を一日も欠かさず下してきたのであれば
論理的思考力はそれなりに備わっていると思いたい。
たしかに、私たちの脳は驚嘆に値する働きをする。
だが、思考のバイアスからは逃れられない。
どんなに望んでも、すべてを論理的に判断できるようにはならないが
どういうバイアスがあり、どういう対処の仕方があるかを知れば
失敗や後悔の数を減らすことはできる。
認知心理学者の著者は、本書で気づいて、行動し、ひいては
社会をよりよくしていくことができないものかと考えている。

●NO714「流暢性効果」 NO715「2-4-6課題」 NO716「ネガティブ・バイアス」
それぞれお楽しみください。

●450席を有するレヴィンソン講堂は、イェール大学でもっとも大きな
講堂のひとつだ。月曜日と水曜日の11時35分から12時50分は
私が担当する「シンキング」という学部生向けの講義が開かれる時間で
講堂の席はぎっしり埋まる。

今日の講義は、自分のことを平均より上だと認識する現象の説明から始まる。
100万人の高校生に「リーダーシップ能力」を自己評価させた実験では
70%が自らの能力を平均以上と評価し、「周囲とうまくやっていく能力」に
至っては、60%が自分は上位10%に入ると評価した。

大学教授に「指導力」を自己評価させた調査では、3分の2の教授が
自分は上位25%に入ると回答した。

こうして自己を過大評価するさまざまな例を提示したら
次は「自分の運転技術は平均以上だと主張するアメリカ人は
何%いると思いますか?」と問いかける。

そうすると、先に紹介した例より高い数字が学生たちから挙がる。
80%、85%の声に続いて笑い声が起こるのは
そんなに高いはずがないと思っているのだろう。
だが、彼らの推測でもまだ低すぎる。

正解は93%だ。

●次に登場するのはダンスだ。
まずは、韓国の人気グループBTSが歌う「Boy With Luv(ボーイ・ヴィズ・
ラブ)のミュージックビデオから切り取った6秒の動画を流す。
このビデオはユーチューブでの再生回数は、14億回を上回る。
私はあえて、振り付けが複雑すぎない部分を選んで切り取った。
動画を流し終えたら、そのダンスを踊ることができた人に
賞品を用意したと告げる。そして同じ動画をもう10回流す。
さらには、このダンスの指導用に制作されたスローバージョンの動画も流す。そのうえで、ダンスに挑戦する志願者を募る。

ひとときの名声を得ようと10人の勇敢な学生が講堂の前方にやってくると
他の学生たちから大きな歓声があがる。声をあげた学生のほとんどが
自分も踊れると思っているに違いない。

何度も繰り返し動画を見れば、私ですら踊れそうな気がしてくる。
しょせんはたった6秒のダンスだ。それほど難しいはずがない。

そして曲が流れだす。
志願者は腕を激しく振り回し、飛んだりキックしたりするが
そのタイミングはみなバラバラだ。誰かはまったく違うステップを踏み
何人かは3秒で踊るのをあきらめる。
その姿に、みなが大笑いする。

何度も見ると、なぜか「できる」と思ってしまう

頭のなかで容易に処理できるものは、人に過信をもたらす。
そうして生まれる過信のことを「流暢性効果」と呼ぶ。

流暢性効果はそっと私たちに忍び寄り、さまざまな錯覚を生じさせる。

講義中にBTSのダンスを学生に躍らせるという発想は、人が新しいスキルを
習得するときに生まれうる流暢性の錯覚について調べた研究から得たものだ。

その研究の実験に協力した参加者は
マイケル・ジャクソンがミュージックビデオでムーンウォークをしている
シーンを切り取った6秒の動画を視聴した。
そのシーンに映るマイケルは、床から足を離すことなく
滑らかに後ろ向きに歩いている。ちっとも複雑そうな動きではないし
いとも簡単に、つまりは流暢に行っているように見える。
  その実験では、一部の参加者には動画を1回だけ、
残りの参加者には20回視聴させた。
そのうえで、ムーンウォークをどのくらい上手にできると思うかを
全員に自己評価させた。

すると、動画を20回視聴したグループの方が
1回しか視聴しなかったグループに比べて強い自信を示した。
何度も見たことから、動きを細部まですべて覚え
頭のなかで簡単に再生できるようになったと思いこんだのだ。

しかし、・・・実際にムーンウォークをやってみると
2つのグループに差はまったくなかった。
マイケル・ジャクソンのムーンウォークを20回視聴しても
1回しか視聴しなかった人より上手にできるようにならなかった。

 
流暢性効果の防止は、「ただやってみる」のが最高の対抗策。
誰かが難なくやり遂げている姿を見ると
自分もできると錯覚が生まれやすい。
できるという錯覚を打ち破るのに
他者からのフィードバックは必要ない。
実際にやってみれば
自分で自分にフィードバックすることになるからだ。

 
試してみるなんて当たり前のことではないか、と思うかもしれないが
実際に試す人は意外にもあまり多くない。

肉体を使わずとも、頭のなかで思い描けば試したことになると
思っている人は少なくないのだ。
 
人は自分が持つ知識の範囲についても、しょっちゅう過信する。
実際に身につけている以上の知識があると思い込むのだ。

その対策として、自分の知識を書き出すと過信が軽減されうる。
知っていると思ったことをいざ説明しようとしたとたん
自分は自分で思っていたよりもはるかに何も知らないと気づかされる。

少し説明を求めるだけで、人は謙虚になる。そのため、意見が異なる人と
対話を持つことが、社会にとっていかに重要かが分かる。

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