No.0715:2-4-6課題
「ThinkingIOI イェール大学集中講義・思考の穴」
- アン・ウーキョン著
- アン・ウーキョン
- イェール大学心理学教授
- イェール大学「シンキング・ラボ」ディレクター
- イリノイ大学アーバナシャンペーン校で心理学の博士号を取得後イェール大学助教、ヴァンダービルト大学准教授を経て現職。
- 2022年、社会科学分野の優れた教育に贈られるイェール大学レックス・ヒクソン賞を受賞。
- アン・ウーキョン
- 花塚恵訳
- 花塚恵
- 翻訳家
- 福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。
- 「SLEEP最高の脳と身体をつくる睡眠の技術」(ダイヤモンド社)
- 「LEADER‘S LANGUAGE 言葉遣いこそ最強の武器」(東洋経済新報社)。)
- 花塚恵
- ダイヤモンド社刊
「自分が正しい」と思える証拠ばかり集めてしまう
これから3つの数字を提示する。
その順序に隠されたシンプルな法則を見つけてもらいたい。
法則はあくまでも数字の順序、つまりは3つの数字の関係を表すものとなる。
どうやって法則をみつけるかというと
自分で考えた3つの数字を出題者に伝えるのだ。
すると出題者が、その並びが法則に当てはまるかどうかを答える。
この確認は何回行ってもよい。
そうして法則がわかったと確信したら回答する。
すると、出題者はそれが正解かどうかを発表する。
それでは始めよう。
法則に当てはまる3つの数字の並びは「2,4,6」だ。
さて、どんな3つの数字のならびを試すだろう。
●マイケルという名の学生にこの問題を出題したとする・
すると、マイケルは「4,6,8」と言い
私はその並びは法則に当てはまると答える。
すると、マイケルは法則が分かったと思い込み、
「簡単すぎですよ」と言い
「法則は、2ずつ増えていく偶数です」と答える。
だが、私は彼に不正解だと告げる。
●マイケルは自説を振り返り、
「ならば、偶数に限らず、2ずつ増えていく数字が答えではないか」と考える。
この説に満足し、「3,5,7」の並びを伝え、法則に当てはまるはずだと
期待する。実際、私の回答は「当てはまる」だ。
マイケルはさらに念を入れ、「13、15、17」の並びも問いかける。
これも法則に当てはまる。
すると彼は意気揚々と「2ずつ増えていく数字!」と回答する。
だが、私はその答えも違うと告げる。
マイケルはSAT(大学進学適性試験)の数学で満点を獲得しており
正解を出せないことに彼のプライドが激しく傷ついている。
そして、再チャレンジする。
マイケル:-9、-7、-5
私 :当てはまります。
マイケル:なるほど。では、1004,1006、1008は?
私 :当てはまります。
マイケル:えっ。本当に「2ずつ増えていく数字」じゃないんですか?
マイケルがしたことは、ピーター・C・ウェイソンの有名な
「2-4-6課題」に挑むほとんどの人と同じだ。
マイケルは自説を確かめるにあたり
自説が正しいと証明する証拠ばかりを集めているのだ。
自説を裏付ける証拠となるデータはたしかに必要だが
それだけでは十分ではない。その仮説の反証も試みる必要がある。
では、具体的に何をすればいいのか見ていこう。
これまでに登場した数字の並びは次の通りだ。
2,4,6 4,6,8 3,5,7 13.15.17
-9、-7、-5, 1004、1006、1008
いずれの並びにも当てはまる法則は、はっきりいって無限にある。
「桁の数が同じで、2ずつ増えていく数字」
「2ずつ増えていく―10より大きい数字」
「2ずつ増えていく―11より大きい数字」・・・・・
このようにあげていけばきりがない。
すべての仮説を検証することはできないが
いずれの数字の並びにも当てはまる法則の候補がたくさんあるときに
真っ先に浮かんだ仮説に固執していては
この問題の正解はいつまでたっても見つからない。
マイケルもそのことに思い至り、別の法則を探り始める。
「同じ数だけ増えていく数字」はどうか。
最初の仮説が当てはまらないことを証明しながら新たな仮説を検証すべく
今度は「3,6,9」という並びを提示する。
私は「当てはまる」と答える。
マイケル:わかりました。では、4,8,12はどうです?
私 :当てはまります。
マイケル:わかりました、答えは、任意の数字Xに定数Kを加える
「X+K」ですね。
私 :違います。
こちらの仮説に関しても、マイケルは反証を試みるべきだった。
苛立ちが募るなか、彼は適当に3つの数字を並べる。
「では、4,12,13はどうです?」
私は笑顔で「イエス」と告げる。その並びは法則に当てはまる。
「はあっ?」
これこそがマイケルに必要な確認だった。
この瞬間、彼が試していた仮説が打ち破られたのだ。
しばらく熟考したのち、マイケルは「5,4,3は?」と尋ねる。
私は否定の意味で首を振る。この並びは法則に当てはまらない。
今度はかなり謙虚な様子で、マイケルが恐る恐る回答を口にする。
「もしかして、前の数字より大きい数字であれば何でもいいんですか?」
ようやく私は答える。「はい、正解です」
●ピーター・C・ウェイソンは英国の認知心理学者で
ユニバーシテイ・カレッジ・ロンドンで研究を行っていた。
いまや有名となったこの「2-4-6課題」(人間の仮説検証の傾向を調べる課題)
を1960年に考案し自ら「確証バイアス」と名づけたバイアスの存在を
初めて実験的に証明した。
確証バイアスとは、人が「自分が信じているものの裏付けを得ようとする」
傾向のことを指す。
その当時、論理的思考について研究していた心理学者は
ほぼ全員が人間は論理的で合理的だと仮定していた。
ウェイソンはその共通認識に反証してみせたのだ。
ウェイソンが初めて2-4-6課題を出題したとき
一度も間違えずに最初の回答で正解の法則を見つけた人は
全体のわずか5分の1ほどだった。
こんな単純な課題の正解が分からない人の多さに彼はショックを受け
この実験の構造に何か問題あるのではないかと考え
それを修正する道を探った。
そしてハーバード大学で同じ課題を出題したときは
回答は一度しかできないと参加者に告げた。そうそれば早合点を防げると
期待したのだ。だがそれでも、不正解の回答をした参加者は73%にのぼった。
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