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No.0717:損失回避・保有効果

No.0717:損失回避・保有効果

ThinkingIOI イェール大学集中講義・思考の穴

  • アン・ウーキョン著
    • アン・ウーキョン
      • イェール大学心理学教授
      • イェール大学「シンキング・ラボ」ディレクター
      • イリノイ大学アーバナシャンペーン校で心理学の博士号を取得後イェール大学助教、ヴァンダービルト大学准教授を経て現職。
      • 2022年、社会科学分野の優れた教育に贈られるイェール大学レックス・ヒクソン賞を受賞。
  • 花塚恵訳
    • 花塚恵
      • 翻訳家
      • 福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。
      • 「SLEEP最高の脳と身体をつくる睡眠の技術」(ダイヤモンド社)
      • 「LEADER‘S LANGUAGE 言葉遣いこそ最強の武器」(東洋経済新報社)。)
  • ダイヤモンド社刊

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●NO717「損失回避・保有効果」・・・クローゼットに衣類があふれる理由。
●NO718「『0パーセント』と『1パーセント』の違い」・・・1%の違いは大違い。
●NO719「自分で自分を生きづらくしている?」・・・こころの持ちよう。
●NO720「いつもあなたの『計画』は甘すぎる」・・・大阪万博も似たようなもの。(笑)

各々お楽しみください。なお、小生の好きな洋画俳優のお話は年末配信と致します。
●「でんごんばん」こぼれ話。

「遅延割引」

同じことでも「先の話」となると考え方が変わる
「今もらう20ドルと1か月後にもらう30ドルのどちらかを選べ」
と言われたら、たいていの人は今もらう20ドルを選ぶ。
ところが、12か月後にもらう20ドルと13カ月後にもらう
30ドルのどちらかになると、ご想像のとおり
ほとんどの人が1ヶ月余計に待って10ドル多くもらう方を選ぶ。
この2つの状況を比較すると、選択に一貫性がないのは明らかだ。
2種類の選択肢の違いは、どちらも10ドルと1ヶ月でまったく同じ。
ところが、現在における1ヶ月の違いは、未来における1ヶ月の
違いよりもはるかに大きなものに感じるのだ。
遅延割引は、未来の報酬だけでなく未来の痛みにも適用される。
それを思えば、人がものごとを先延ばしにするのも納得がいく。
やりたくない作業は、締め切りの数時間前になるまで
場合によっては締め切りを過ぎるまで、その存在を完全に拒否してしまう人は多い。
嫌でたまらない作業がもたらす苦痛は、未来にやっても今やっても全く同じなのに
どういうわけか未来に行うほうがうまく対処できそうに感じる。
だから、多く人が先延ばしにするのだ。
⇒夏休みの宿題を思い出す方も多いのでは・・・小生だけでしょうか。(笑)

●こんなゲームを思い浮かべてほしい。
私がコインを投げて、表が出たらあなたに100ドル渡すが、裏が出たら
あなたが私に100ドル支払わなければいけない。
さて、あなたはこのゲームに参加したいと思うだろうか?

この場合、たいていの人は参加したがらない。
それでは、ゲームの内容をもう少し魅力的にしよう。

コインの裏が出たら100ドル支払わないといけないのは同じだが
表が出たら、私はあなたに130ドルを渡す。

魅力を分かり易くするには、
このゲームにおけるいわゆる期待値を計算すればいい。
ゲームで100ドル失う確率は50%で、130ドル得る確率も50%なので
期待値は「0.5×マイナス100ドル+0.5×130ドル」の計算式で
求めることができ、15ドルとなる。

つまり、このゲームを繰り返し行えば、勝つときも負けるときもあるが
最終的には平均15ドル手に入るということだ。
期待値がゼロよりおおきいのだから、数学者や統計学者、経済学者のように
合理的に考える人なら、このゲームへの参加を選ぶはずだ。

ところが、このルールになっても、ゲームに参加すると答えた人は
ほとんどいない。
私も間違いなく参加しない。

ほとんどの人は、勝敗比率が2.5:1
(表が出たら250ドルもらえ、裏がでたら100ドル失う)以上にならない限り
ゲームに参加しようとしない。

このように、損失を回避しようと働く心理のことを「損失回避」と呼ぶ。
損失は、獲得よりはるかに大きな存在感を放つ。

「自分のもの」になった瞬間、惜しくなる・「保有効果」
次の実験では、参加者である大学生たちに
各自が通う大学のロゴが描かれたマグカップか
スイスチョコレートバーのどちらかを選ばせた。

すると、約半数の学生がマグカップを選び、残りの半数がチョコバーを選んだ。
これにて、実験に参加した大学生がこの二択のどちらを選ぶかの割合の
基準値が確定した。

その後、同じ大学に通う先ほどとは別の大学生グループにも
マグカップとチョコバーという同じ二択を提示した。

ただし、提示の仕方に少々の修正を加えた。
最初にマグカップを見せ、このカップは持ち帰ってもよいと伝えた後に
マグカップとチョコバーを交換しないかと尋ねたのだ。
基本的には、マグカップとチョコバーのどちらがほしいかと
尋ねているのと変わらない。

ということは、基準になる最初の実験結果を踏まえると
約半数の学生がチョコバーへの交換を求めるはずだ。
ところが、チョコバーへの交換を選択した学生はたった11%だった。

●マグカップを最初に提示したことに特別な意味がないことを確かめるべく
次の大学生グループには最初にチョコバーを渡し
それとマグカップを交換しないかと尋ねた。
すると、同じことが起きた。
約半数の学生が交換してしかるべきなのに
10%の学生しか交換の意思を示さなかったのだ。
90%の学生は、チョコバーをキープすることを選んだ。

この実験で注目すべきは、マグカップ、チョコバーのどちらかを
渡された学生たちには、渡されたものに愛着がわく時間はまったく
なかったという点だ。

また、彼らには、渡されたものを売って利益を得るという発想もなかった。
とはいえ、いったん自分のものとなったマグカップを何かと交換すれば
マグカップを失うことになる。それはチョコバーも同じだ。

単純に、人は自分の所有物を失うことが嫌でたまらないのだ。
自分のものとなった時間がどれだけ短くても関係ない。

「手放したくない心理」を反転させる
この例の最たるものが、無料トライアルだ。
30日間無料で使えると分かると
キャンセルを忘れないようその期間が終わる日をカレンダーに記し
これで安心だとたかをくくる。

しかし、一度自分のものとして使い始めると
保有効果によってそのサービスがとても魅力的に感じる。

それほどほしいと思ったことなどなかったのに、
突如としてそれなしではいられないと感じるようになるのだ。
保有効果に頼った販売戦略というと「返品無料」サービスもそれにあたる。

クローゼットが衣類であふれかえる二大元凶をあげるとすれば
間違いなく保有効果と損失回避になる。

●著者は、近藤麻理恵さんの「人生がときめく片づけの魔法」を紹介している。

著者は言う。「彼女は片づけのプロであって心理学者ではないが
彼女ほど損失回避を深く理解している人はいない。」

失うことへの恐怖を克服するためとして
彼女はまず、家にある衣類をすべて出しましょうと提案する。
ハンガーにかかっている服、引出しに入っている服、
下駄箱に入っている靴をすべて床に積み上げるのだ。

床に出したものは、その瞬間から自分の所有物ではなくなる。
保有効果の影響はなくなり、失うものもなくなった。

そうすると、行うべき決断が、手にするものを選ぶ決断に変わる。
何かを「失う」という切り取り方から
何かを「得る」という切り取り方に変わったのだ。

これなら、失うことへの恐怖は生まれないので
好みに応じて1着ずつ吟味していけばいいからだ。

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