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No.0728:宇宙に行って人生観は変わりましたか?

No.0728:宇宙に行って人生観は変わりましたか?


「どう生きるか つらかったときの話をしよう」
 ・野口聡一著
 ・アスコム刊
 「後悔なく生きるのは宇宙に行くより難しい」からです。

(Amazonサイトへ)

  • 野口聡一
    • 日本の宇宙飛行士
    • 1956年神奈川県茅ヶ崎出身
    • 東京大学先端科学技術研究センター特任教授
    • 日本大学理工学部航空宇宙工学科特任教授
    • 「コロンビア号事件」「仲間の死」「自己否定」「他人と比べてしまう苦しみ」
      そこから再出発し、たどり着いた「自分らしく生きること」の本質を描く

■著者曰く、「自分自身の心の中、あるいは人生に向き合っていくのはもしかしたら宇宙に行くより困難な旅かもしれません。
この本が、一人でも多くの人にとって、自分らしく後悔の無い人生を送るきかっけになること願っています」。

●NO728「宇宙に行って人生観は変わりましたか?」
⇒宇宙に行って、果たして自分の人生観が変わったかどうか確信が持てないけれど人々の期待に応え、「変わった」と言わなければならない。そんなギャップ、違和感を抱えながら・・・。

●NO729「宇宙一暗い宇宙飛行士だった?」
⇒自分はいらない人間なんだ、と苦しんだ10年間。

●NO730「後悔なく生きるために大事にすべきこと」
⇒後悔なく生きるのは宇宙に行くより難しい。

●NO731「棚卸をし、丸腰になったときこそ」
⇒本当に大事なことが見えてくる。



宇宙に行って人生観は変わりましたか?


●僕は1996年(平成8年)に宇宙開発事業団(NASDA,現・宇宙航空研究開発機構JAXA)の募集に応募して、31歳で宇宙飛行士候補に選ばれ2022年6月1日に57歳でJAXAを退職。その間、宇宙飛行士として合計3回、宇宙へ行きました。

初めて宇宙に行ったのは2005年(平成17年)、40歳の時ですがそれから今まで、何度となく次の質問をされました。
「宇宙に行って人生観は変わりましたか?」
たくさんの人がこの質問をする理由は、もちろん僕にもよくわかります。

かつて僕が教えを請うたこともある作家の故・立花隆先生は、『宇宙からの帰還』(中公公論社)の中でこう記しています。
「宇宙体験という、人類史上最も特異な体験を持った宇宙飛行士たちはその体験によって、内的にどんな変化をこうむったのだろうか。
(中略)それがどれだけ体験者自身に意識されたかはわからないが体験者の意識構造に深い内的衝撃を与えずにはおかなかったはずである」

この名著によって宇宙への憧れと夢を育(はぐく)まれた僕も「宇宙に行くというドラスティックな体験をして、人生観が変わらないわけがない」とずっと思っていました。

ところが、実際に宇宙に行き、帰ってくるとそれまで想像もしていなかったことが僕を待ち受けていました。
宇宙へ行き、無重力空間で、国籍も人種も世代も異なる仲間たちと生活しミッションに取り組むこと、地球を外から眺めること、宇宙船の外に出て死と隣り合わせの状態でさまざまな作業を行うこと。
これらはいずれも、何ものにも代えがたい素晴らしい体験でした。
しかし、宇宙から帰って来たばかりの僕には宇宙で経験したことの意味を理解することができませんでした。


●特に最初のフライトは2週間だけであり、地球では絶対に経験できないさまざまな出来事に感情を揺さぶられ、ミッションに追われているうちに終わってしまった感覚がありました。
しかもその後、すぐに2回目のフライトのための準備が始まったため「宇宙へ行って、自分の何が変わったのか」を落ち着いて考える余裕がなかったのです。

それでも、「宇宙に行って人生観は変わりましたか?」という質問には、肯定的な答えを用意し
内面的な成長を見せなければいけない。当時の僕はそう思っていました。それが、多くの人が僕に望んでいることだからです。

宇宙に行って、果たして自分の人生観が変わったかどうか確信が持てないけれど、人々の期待に応え、
「変わった」と言わなければならない。
そんなギャップ、違和感を抱えながらも2回目のフライトの準備に忙殺され、2009年(平成21年)、再び宇宙へと旅立ちました。

●2回目のフライトでは、国際宇宙ステーション(ISS)に半年間滞在しさまざまなミッションを達成し、その時点での日本人宇宙飛行士の宇宙滞在期間の最長記録を更新しました。
また、ツイッター(現・X)を通じて情報を発信し地球とリアルタイムでの交流をしたり、テレビのバラエティ番組に出演したりもしました。自分が、そして人類が宇宙に行くことの意味を僕なりにつかみたいという思いもありました。

ところが、あまり知られていないことですが2回目のフライトの後、僕は非常に大きな苦しみを抱えることになりました。苦しみの大きな原因の一つは、それまで寝ても覚めてもずっと頭の中にあった「宇宙でのミッション達成」というプレッシャー(重石(おもし))が取れ今度自分がどこへ向かっていけばいいのか方向感を失ってしまったことにありました。

次回の「でんごんばん」は、
『人はどう老いるのか』医者はホントは知っている楽な老い方、苦しむ老い方
久坂部羊著。講談社現代新書刊から。

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